ごあいさつ

2019年4月にSATNADIカウンセリングルームを開設し、早いもので4年目となりました。
年間100名以上の方を新規にお迎えし、地域の皆さんのメンタルヘルスや心の成長のお手伝いをさせていただいています。

私の尊敬する遠藤周作は、人生と生活の違いを説いています。
挫折、苦悩、悲哀。差し当たって役にも立たないこと。
一見無駄に思える体験が、実は無駄ではなく、人生の意味となり価値となる。
すぐに役に立つこと、有益なことだけを追求していては、生活は便利になるが、豊かな人生にはならない。

私たちは、少し生活の方に比重が置かれすぎているように思います。
次々と生み出される新製品も、昼夜問わず流れ込んでくる情報も、即座にニーズを満たしてくれるものでなければ「無意味」「無価値」と切り捨てる。
心の問題も同様です。すぐに問題を解決しなければ、苦痛を取り除かなければということばかりに躍起になる。
「カウンセリングに行ったけれど、何の解決にもならなかった」と失望する。

しかし、本当にそうでしょうか。

生活上の挫折も、人生にとって意味のあることかも知れません。
悩むという心の営みそのものが、自分の人生の意味を探求する尊い行為です。
そうして「何ひとつ無駄ではなかった」と思えたとき、自分の人生を愛し、自分という存在を誇りに思えるのではないかと思うのです。
もちろん、そこに至るまでには途方もない道のりがあり、簡単ではありません。
カウンセリングとは、苦難も迷いも一緒に味わいながら、自分だけの人生の意味を見つけていく過程をサポートすることです。

これまでにもたくさんの方の人生の物語が、この小さな部屋で語られてきました。
多くの人が出入りするような病院や公的機関ではなく、こうしたプライベートな空間だからこそ、自分でも蓋をしてきた思いに向き合えるのではないでしょうか。
自分の心のありようを見つめることは、自分の人生を大事にすること。
当ルームでは今後も、日常生活から少し離れ、ひとりひとりの人生の物語を紡いでいくお手伝いができればと思っています。


臨床心理士・公認心理師 薩川奈々

 

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